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御坊市 野口   西本 史人(にしもとふみひと)さん (32歳)

就農年数 10年 ガーベラ50a、5棟の施設で栽培。 平成21年度JA紀州中央青年部会計。  
西本史人さん広報誌『はあとふる』2009年9月号掲載記事より


 7月28日に行われたJA和歌山県青年大会で、JA紀州中央青年部の本部会計、野口・塩屋支部の西本史人さんが、県代表に選ばれました。12月11日の近畿大会に出場し、全国大会を目指します。

 今回は、西本さんの『農業』と『家族』への深い想いが綴られた主張発表を、ご紹介致します。

 我が家の基本理念

 農業の魅力、私はその一つに、単なる労働者に留まらず、経営者になれることを挙げたいと思います。

 私の父は、私が小学生の時に脳梗塞で倒れ、右半身がマヒして動けなくなり、言葉もうまく話せなくなりました。もちろん仕事は出来ず、家の農業は親戚に委ね、母がそこに手伝いに行くという形になってしまいました。

 こんな状況の中、私は高校卒業後、ただ単に東京に行けるという理由で、東京の農業者大学校に進学しました。大学卒業が近づくにつれ、家の農業を私が営めば、全てのことがうまく回るのではないかという想いが芽生え、実家に帰り就農しました。最初の2~3年は、親戚の下について農業を教わり、その後、親戚の手から離れ、母と二人、自分たちの力だけで農業を始めました。その内容は、ハウスの切り花栽培で、ガーベラを20a作る事でした。

 この時から、規模は小さいながらも、私は、いわゆる経営者となったのです。しかし、今になって振り返ると「よくやってこれたな」と思うほど大変でした。思い通りのガーベラは全く作れず、そんな花が高く買ってもらえるはずもなく、当然儲かりもしません。全ての責任は自分にあり、何もかもが私の肩にのしかかってきました。ここで初めて、どうしたらうまくやっていけるのかを真剣に考えました。しかし、一人で考えるのには限界がありました。こんな時力を貸してくれたのが、JAの青年部盟友と、ガーベラ部会の仲間たちでした。私の悩みに親切に答えてくれ、圃場も見せてくれました。そのおかげで、徐々に経営も安定してきました。

 こうして視野を広げていくうちに、私は、あることに気付きました。それは、同じガーベラ栽培でも、色々な方法があるということ。生産者の考え方や性格までもが、そのまま経営に表れるという事に興味を持ちました。

 そこで私も、私独自の経営をしたいと考えるようになり、しっかりとした経営ができるよう、まずは経営の柱となる基本理念を作ろうと決意しました。

 最初に考えたのが、農業経営をする上で、「何を一番大切にしていくのか?」という事です。私の一番は、家族の幸せだと考えます。毎日仕事に追われていると、つい儲ける事が目的だと考えてしまいますが、私達が一生懸命に働いているのは幸せになるためであり、儲ける事はその手段に過ぎないのではないでしょうか。

 父は、長いリハビリの甲斐あって、ようやく自分の身の回りのことが少しずつできるようになり、車の運転までできるようになりました。それでも仕事をすることは無理で、一日の大半は家でテレビを見て過ごしていました。私は、少しずつでもいいので、父に私たちの仕事を手伝ってもらうことはできないか考えました。花にキャップをつける機械を導入し、左手だけでも選別作業ができるよう工夫し、納屋で父も一緒に働けるようにしました。すると、母が「この頃、お父さんがとても明るくなった」と言うのです。こうして、しばらくは、家族全員で仕事ができるようになり、みんなの喜ぶ顔を見ながら、私は大満足でした。

 その後、私は結婚し、子供も授かりました。調子に乗っていた私は、「このままではいけない」と、規模拡大を図りました。しかし、この思惑が予想もしない結果を引き起こす事になりました。父は、同じ姿勢で長時間選別をしていたため、肩こりからくると思われるめまいを起こすようになりました。腰痛を抱えていた母にも、無理をさせたことで足にまで影響し、ドクターストップがかかってしまいました。規模拡大によって忙しさに追われ、一番大切なことを忘れてしまっていた私は大バカヤローです。

 この経験で、改めて一番大切なのは、家族の幸せ、健康、共に働ける喜びなのだと実感しました。忙しくても、たまには休みをとり、嫁さん孝行もしましょう。理想的な家族経営は、いかに全員が同じ方向を向いているか、同じ想いを抱いているかだと思います。そうなれば、家族の幸せは必ず手に入れることができるのです。

 次に、基本理念を考える上でヒントとなったのは、ある医薬品メーカーの社長の言葉でした。「医薬品は、利益のためにあるのではない。患者のためにあることを絶対に忘れてはならない。このことを肝に銘じていれば、利益は必ずついてくる」。この言葉に出会った時、私はパーッと視界が開けたように感じました。全ての経営者にとっての指針ではないでしょうか。私に置き換えると、「私が作るガーベラは、利益のためではなく、お客様のためにある」。私は、基本理念の2つ目に「お客様に喜んでもらう事」を加えました。そのためには、お客様はどんなものが欲しいのか、何をしてほしいのかを知ることから始まります。

 私が所属するJA紀州中央ガーベラ部会は、最も若い世代である私たち青年部員が主となり様々な活動をしています。その一つに、ガーベラ部会全体で栽培している品種のカタログの作成があり、年に数回、このカタログを使って市場で宣伝活動をしています。市場に集まってくれた花屋さんから聞くことは、ためになる話ばかりです。厳しい意見に落ち込んでしまうこともありますが、それがお客様の生の声です。一つ一つが直接心に響き、「絶対に改善してやろう」という気持ちが湧き上がります。農家はつい独りよがりな考えで作物を作りがちですが、しっかりお客様の声を聞き、満足してもらえる花を作る事が大切です。

 最後に、基本理念に入れておきたい事。それは「絶対に諦めない!」ということです。何事にも通じることですが、諦めるとそこで全てが終わってしまいます。私が諦めると、家族が幸せにはなれません。諦めないという事は、出来るまでやるという事。出来ないのは出来るまでやらなかったというだけではないでしょうか。「家族が幸せになるまでやりぬく」「お客様が満足するまでやりぬく」。この事を貫き通せば、もう私の経営は成功しない訳がありません。何故なら、出来るまでやるからです!

 もしかしたら、我が家の基本理念は、どんどん増えていくかもしれません。しかし、減らすことはありません。それだけ不変的で基本的なものだと考えます。

 試行錯誤の結果、私なりの基本理念が完成しました。ここできちんと宣言します。

我が家の基本理念
一.家族を幸せにする事、それが最大の目的である。
二.お客様に喜んでもらい、満足してもらえる仕事をする。
三.どんなことが起ころうと、絶対に諦めない。


 この基本理念の完成後、私は、以前のように焦ったり揺らいだりする事がなくなりました。今、誰かに「農業の魅力は何ですか」と聞かれたら、私は胸を張り「経営者になれる事です」と答えるでしょう。

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